子ども虐待防止学会ふくおか大会で「福岡市の新・権利ノートの取り組み」を聴講しました。
広聴チームの三本松です。12月10-11日に福岡国際会議場で行われた『日本子ども虐待防止学会 第28回学術集会ふくおか大会』に参加してきました。
2日にわたり、120を超える発表(基調講演、シンポジウム、研究発表)がありました。学会参加が初めての筆者としては、どの会場に行ってよいのかやや戸惑いを覚えるほどです。
本学会には、「弱いきずなでゆるやかにつながり続ける ~コロナ禍の乳幼児虐待予防のための新たなコミュニケーション設計」という演目で、代表大島が発表。インターネットやSNS等、情報洪水の中にいる妊娠・子育て中の養育者とどう接点を持つか、コミュニケーション設計の観点からみたきずなメールの役割等を共有しました。
学会での発表の多くは、医療者や子どもと接する専門職の直接的な虐待予防についてが多かった印象です。そんな中、間接的な子育て支援であるきずなメールについての発表は少し異色でしたが、参加の意義があったと感じました。
さて、初日の団体発表後、筆者は「子どもの権利を子どもにどう伝えるか?~福岡市の新・権利ノートの取り組みpart2~」という福岡市と協働するグループの合同の発表を聴講しました。
子どもの権利というキーワードは、きずなメールを自治体が運用するときの仕様書にも、事業目的として入っています。
“本事業は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、メッセージにより養育者の孤立を防ぐことで、子どもの最善の利益の実現を目指すものである。”
権利の主体である子どもにそれをどう伝えていけばよいのか、実際にはどう伝えているのか、という疑問と、自治体ではそれを事業に組み込み実施しているとのことで、気になりました。
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福岡市では、研究会を発足し、アドボカシーシステムの構築を進めています。発表では、リニューアルした『新・権利ノート』をもとに、アドボカシー文化の醸成へ取り組まれている一連の話がありました。
この権利ノートは、社会的養護のなかにいる子どもに向けて作成されたものです。筆者は知りませんでしたが、「権利面接」と言って、児童相談所の職員が、社会的養護にいる子ども一人ひとりと面接する機会があり、その時に配布されるそうです。
研究会では、ノートを作るだけではなく、子どもと大人の対話を通じて、「子どもの権利」を知るといったコンセプトで、大人のための研修も確立したとのことで、発表では、研修の詳細が共有されました。
その後、児童養護施設の職員から、『新・権利ノート』を配布された子どもの反応について共有がありました。その施設は入所者に中高生が多いという特色があり、その施設内の子どもにおいて見られた反応として、受け取った後、すぐに破棄する等否定的反応や権利面接自体に応じない子どももいるとのこと。ただ、職員へのアンケートでは、権利の研修を受けて、自身の意識に変化はあったか?という問いに、8割があった/2割がどちらでもない/なかったはゼロだったとのこと。生活の中でどのように権利を伝えていけるかという話合いも行われたそうです。
最後に、コメンテーターを務める有識者から、権利ノートの変遷が語られました。
日本では、1995年に大阪府が初めて作成したのが始まりで、大本はカナダのもの。権利について、権利は資源を要求するということ、その資源は有限であること、(子どもに対して)説明すること、そして話し合うことの4点が挙がりました。カナダには資源があったが、当時の日本にはなく、権利の本質を全部は盛り込めずのスタートだったようですが、その後、各地の自治体に派生し、今回お話を聞いた福岡市の『新・権利ノート』につながっているようです。
また、先の発表についてコメンテーターからは、社会的養護のもとにいる子ども(つまり権利が十分に保証されているとは言えない環境にあった子ども)に伝えるのは一番大変だという指摘もあった上で、大人のための研修のように具体的に学ぶことは不可欠であるというコメントがありました。
トータルで90分ほどのシンポジウムでしたが、多くの学びがありました。
施設職員や里親は生活支援から始まり、進路相談や様々なことをやっていると想像しますが、権利についても伝えるという役割も果たしていることを知りました。先の児童養護施設の職員の発表より、生活の中でどのように権利を伝えていけるかについて、「丁寧なお世話、やりとり、会話を大切に」「子どもの話を聴く」「言葉はなくても、大切にされていると伝わる関わり」「子どもが自分の考えを言える、話せる雰囲気づくり」になるといったような話がありましたが、改めて一つ一つ読んでみると、重みのある言葉です。
今回の話は、まさに現場で当事者(子どもの権利)と向き合っている、一番ハードなところかと思います。
冒頭に「きずなメールは間接的な子育て支援」と書きましたが、きずなメールは、妊娠、子育て中の養育者全体に医師等専門家が制作・監修した原稿を届けます。今回の話とは逆に広く、ゆるやかにですが、子どもの権利(アドボカシー文化の醸成)の後押しになればと願っています。(了)