きずなメール・プロジェクト

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乳幼児虐待予防の第一歩は必要な情報をタイムリーに届けること【自治体きずなメール事業 活用事例】

2021年6月1日

全国の警察が「虐待の疑いあり」と判断して児童相談所に通告した子どもの数は、2020年の1年間で10万人を超え、過去最多を記録しました。(※)
新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛が続く中で、家庭内での乳幼児・児童虐待が見えにくくなっているのではないか– 現在、日本社会全体でそんな懸念が増大しています。

どうすれば、不幸な事件を未然に防ぐことができるのか。対象者と直接対面して支援することが難しくなっている今、各自治体でも試行錯誤を重ねています。

そんな中、コロナ禍以前から、乳幼児虐待予防の一環として自治体きずなメール事業を展開しているのが、新潟県新潟市西区です。西区では、2019年7月にスタートした「にしっこはぐくみLINK」(西区子育て応援情報配信LINE)で、活用されています。

地域住民への情報提供を目的とした導入後、2年にわたって運用をサポートする中で、担当のみなさんが子育て支援に向ける熱意を、私たちも間近で感じてきました。今回は2021年現在、「にしっこはぐくみLINK」を担当されている職員のお二人に、きずなメール導入後の変化や手応え、今後の取り組みについてうかがいました。

※出典:「令和2年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」,警察庁
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/syonen.html

抱えていた課題感

それまでも区報や広報誌、ホームページなどに、子育て支援に必要となる情報は掲載していた。しかし、それだけでは能動的に見にくる人にしか情報を届けられないため、さらなる施策を検討していた。

「きずなメール」導入後の成果

  • 登録者数が堅調に増加しており、アンケートの回答も好評。
  • 特にマタニティ期の読者アンケート回答者のうち9割が「届いたら必ず読む」と回答していることから、LINEからのきずなメール配信により区からの情報が登録者に届いていることがわかる。
  • 市や区の相談窓口を周知することで、乳幼児・児童虐待につながってしまう前に、一部の読者が相談に訪れるきっかけをつくることができた。
  • 取り組みを通して行政内部や関連機関とのコミュニケーションが生まれ、協力関係が良好になった。

自治体情報:新潟県新潟市西区
・人口:155,894人(令和3年4月30日現在)
・年間出生数:1,057人(令和元年度)
・活用時期:2019年7月から継続中

西区子育て応援情報配信LINE「にしっこはぐくみLINK」
https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/ku_info/kurashi_nishi/kosodate/nishihuglink.html

お話しを伺った方

新潟市西区役所 健康福祉課
こども福祉グループ こども支援担当
主幹 渡辺 剛さん/主事 丸山 紗也加さん

目次

1.情報を置いておくだけではなく、必要とする人に必要なタイミングで届けたい

2.9割の登録者が「届いたら必ず読む」コロナ禍の不安解消に役立った

3.タイムリーな情報発信が、乳幼児虐待予防の第一歩となる

4.ママだけではなく、パパにも届けたい。夫婦が一緒に子育て情報に触れられる仕組み作りを

1.情報を置いておくだけではなく、必要とする人に必要なタイミングで届けたい

-- きずなメール・プロジェクトにお問い合わせいただいた経緯を教えてください。

丸山さん(以下、敬称略):前任の係長が、ある新聞記事で、きずなメール・プロジェクトの特集を見かけたことが導入のきっかけでした。「自治体発信で正しい子育て情報を届ける」という自治体きずなメール事業の目的に賛同して、問い合わせたのがはじまりです。

渡辺さん(以下、敬称略):西区ではこれまでも、各種支援センターなど相談窓口でのサポートに加え、新潟市の市報や区報、広報誌、ホームページ、市が採用している子育て応援アプリなどを通して、子育てに必要な情報発信を行ってきました。

しかし実際に窓口に足を運んでもらったり、ホームページを自分から閲覧したりしなければ、それらの情報に接することはできません。そうではなく、適切なタイミングで、必要とする情報を届けられる仕組みが必要だと考えていました。

-- 導入していただくにあたって私たちが説明会を開催したとき、行政のみなさんだけではなく、地域で子育て支援に携わっている関係者の方々が庁内外から約30名参加してくださったのが印象的でした。普段から、関係者のみなさんと交流をしていらっしゃるのでしょうか。

渡辺:そうですね。説明会には子育て支援センターや児童館の職員の方だけでなく、自主的な活動を行っている市民の方も来てくださいました。また健康福祉課の中にいる母子保健担当の職員から、助産師会など関連団体のみなさんにもお声がけしています。

子育て支援は行政と民間、両輪で行っていく必要があると考えており、私たちは以前から、年に1回、みなさんと情報を共有する機会を設けています。行政単体でカバーできることは、どうしても限られますから。

▲2019年に実施した、きずなメール導入についての説明会の様子。普段から地域ぐるみで子育て支援に向き合っていらっしゃるのを感じました。参加してくださった皆様からいただいた西区の妊娠・出産子育てに関わる情報は、西区オリジナルの自治体情報として区民に配信されています。また、区民への「にしっこはぐくみLINK」周知にも協力していただいています。

2.9割の登録者が「届いたら必ず読む」コロナ禍の不安解消に役立った

-- 事業開始から2年がたちましたが、変化や手応えなどはありましたか?

丸山:登録者数が落ちずにずっと伸び続けている状況そのものが、一つの成果だと思っています。

-- 読者アンケートで、「届いたら必ず読む」と回答している方が9割を超えているのを拝見しました。

丸山:読者の方から、「不安感がやわらいだ」「毎日届くのを楽しみにしている」という声も多くいただいています。「マタニティ期」「子育て期」と、その人が当事者として渦中にいる時期に合わせた情報が届くので、「まるで私のことをどこかで見ているんじゃないかと思いました」とコメントをくださった方もいらっしゃいました。


「にしっこはぐくみLINK」読者アンケートよりhttps://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/ku_info/kurashi_nishi/kosodate/nishihuglink.html

▲2019年度に実施された読者アンケート。9割以上の方が「届いたら必ず読む」と回答。

渡辺:きずなメールはLINEを通し、その人が必要とする正確な情報をタイムリーにお届けして、不安の解消をはかることができるサービスであると認識しています。だからこそコロナ禍に入ってからは特に、この仕組みがあってよかったと実感することが増えました。

例えば「いま、子育て支援センターは人数制限しているけれど、開いていますよ」という情報をお知らせする。そうした発信が、小さなお子さんを連れて不安を抱えているパパ・ママに対するケアになっているのではないでしょうか。そうした積み重ねが、アンケート結果にも表れていると思います。

丸山:それからもう一つ、私たちの課だけではなく、区が一丸となって子育て支援に取り組めていることを実感できるようになりました。他の係の職員が「このサービスいいね」と言ってくれて、区民の方にもどんどん「にしっこはぐくみLINK」を紹介してくれています。

最近は私たちがお願いしなくても、区報の空いたスペースに、広報担当課が区報の空いたスペースに「にしっこはぐくみLINK」の情報を積極的に載せてくれています。

渡辺:西区の区長も、この取り組みを大事に思ってくれています。行政はどうしても、縦割りで役割が分かれてしまいがちですが、きずなメールの導入・運用を通して、関係各所とのコミュニケーションが生まれ、良好な協力関係が築けています。

3.タイムリーな情報発信が、乳幼児虐待予防の第一歩となる

-- 西区ではきずなメールの導入について、乳幼児虐待予防の施策として事業計画に明記されていますよね。その成果は数字で測ることがなかなか難しいと思いますが、区ではどのように捉えていらっしゃいますか?

渡辺:おっしゃる通り、乳幼児虐待予防は数値で成果を測ることが非常に難しい課題です。虐待相談件数の増減も、単純に施策の成功・失敗と結びつけて考えることができません。相談件数が増えることによって、深刻な状況に陥る前に、問題をキャッチできていると捉えることもできるためです。

私たちが考える虐待予防の第一歩は、例えば、今まさに赤ちゃんがなかなか泣き止まなくて困っている、そんな人に必要な知識をタイムリーに届けること。「赤ちゃんってなかなか泣きやまないよね」「ストレスに感じるのはみんな同じですよ」「そんなときは、こう対応してみて」と、寄り添うようなメッセージが送られてくれば、「ああ、これでいいんだ」とほっとできる人もいるのではないか、と。

産前に配布されるパンフレットにそうした情報を載せていますが、その時は読み流してしまう人もいると思います。

だから私たちとしては、まずは届けるべき人に、適切なタイミングで正確な情報を届けることが最重要だと考え、「にしっこはぐくみLINK」の運用を続けています。小さな不安を解消していくことが、広い意味で虐待予防につながり、結果的に凄惨な事件を減らすことができると考えています。

丸山:実際、子育てに悩んでいるときに「にしっこはぐくみLINK」を通して市や区の相談窓口を知り、相談するきっかけになったという声もいただきました。子育てが本当に辛くなってしまったとき、相談窓口さえ知っていただいていれば、行政としても必要な支援を行うことができます。そういった意味でも、きずなメールが大きな役割を果たしてくれていると思います。

4.ママだけではなく、パパにも届けたい。夫婦が一緒に子育て情報に触れられる仕組み作りを

-- 情報発信を行政のみなさんだけで行うことは、他の業務もある中、とてもハードルが高いことと思います。きずなメールの運用体制についてはいかがでしょう。

渡辺:行政だけで情報発信のための原稿を作ろうとすると、さまざまな立場や意見に公平な立場で配慮しなければならないこともあって、まとまらないケースが多々出てきます。それをきずなメールスタッフのみなさんが、うまく原稿にしてくださるので助かっています。

丸山:誰にとっても読みやすい原稿を作るのは、やはり簡単なことではないと感じます。登録者の方に寄り添い、語りかけるようなメッセージを毎日配信できるように支援いただいていて、とてもありがたいです。特に自治体情報原稿のところは、私たちの要望をたくさん汲んでもらっています。

-- 運用するうえでこだわっていること、現在力を入れている取り組みなどがありましたら教えてください。

丸山:今、私たちが力を入れているのは、ママだけではなくパパ、男性パートナーに対する情報発信です。周知登録のためのチラシや広報誌も、男性・女性と、夫婦両方の視点を意識して制作しています。今年度の自治体情報原稿でも、「パパも子育ての主役!」という原稿を作成しました。ぜひ男性パートナーの方にも登録していただき、夫婦一緒に読んでいただきたいと思っています。

渡辺:私たちが子育てに関する広報誌を制作したとき、お話をうかがった男性の中には、自分たちも父親として、主体的に子育てに関わるのが当たり前だと考えていらっしゃる方もいました。今後、行政側としても、夫婦が一緒に子育て情報に触れることができる仕組みを作っていくことが、大きなテーマの一つになっていくでしょう。

丸山:きずなメールのみなさんはすでに、男性パートナーを意識した原稿作りに取り組んでくださっているので、今後もぜひ、夫婦揃って受け取ることができるメッセージ作りを続けてください。

▲「にしっこはぐくみLINK」のチラシ

参考:西区子育て情報誌「hug kumi(はぐくみ)」と広報紙「hug kumiだより」
「パパと子育て」をテーマに、パパたちの子育てや家庭への向き合い方を座談会で聞いてみました。
https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/ku_info/kurashi_nishi/kosodate/nisiku-hugkumi.html

自治体協働パートナー(増田)より

きずなメール・プロジェクト自治体協働パートナーの増田です。
お二人のお話しから、庁内外の協力体制・良好な関係性が大きな力になって事業を後押ししてくださっていることもよくわかり、とても心強く感じました。
丸山さんはいつも元気に対応してくださるので、私たちスタッフも力づけられています。これからも、新潟市西区の皆様と一緒に地域の子育てを、「にしっこはぐくみLINK」をとおして応援しています。

▲初めて西区へ事業説明のため訪問した日に。一番左が西区区長、左から二番目が増田。

>>>自治体きずなメール事業について/問い合わせ
https://www.kizunamail.com/activity/government/

(構成:大島悠)

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