きずなメール・プロジェクト

お知らせ・ブログNews & Blog

【読みもの】見過ごされてきた「男の産後うつ」。子育てや夫婦関係への影響は?

2021年4月22日

男性も「産後うつ」になることをご存じでしょうか?

近年、男性の産後うつが注目を集めています。2021年2月9日に閣議決定された「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」にも、「男性の産後うつ」に対する社会全体の理解を深める必要があると明確に記されています。

男性の産後うつには、どのような特徴があるのか。どのような支援が必要なのか。

男性の産後うつを研究されている、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センターの精神科医、中嶋愛一郎先生に、大島(きずなメール・プロジェクト 代表理事)がお話をうかがいました。

■男性の11人に1人は「産後うつ」

──男性の「産後うつ」に、少しずつ関心が集まっています。

とても大切なことだと思います。

かつて、産後うつは女性に固有のものだと考えられていました。しかし近年の研究では、周産期は男性も8.4%、約11人に1人の確率で産後うつになることが明らかになっています(※1)。

男の産後うつ

中嶋愛一郎/精神科医。国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター 研究員

また、日本で行われた調査でも、11%の父親が産後に強い心理的ストレスを抱えていると報告されていています。これは女性と大きく変わらない数値です(※2)。

──男女差がほぼないと聞くと、驚く方も多いかもしれませんね。

ただ、性別による違いもあります。ひとつは「症状の傾向」です。

うつの代表的な症状、「不快気分」「気力の低下」などは、男女に共通して現れます。しかし男性の場合は、女性と比較して「怒り」「苛立ち」「過活動」「衝動コントロール困難」などの形で症状が現れやすい傾向があるんです(※3)。

また、「発症時期」にも男女差が見られます。女性の産後うつは出産3カ月以内が発症ピークです。一方で、男性の産後うつは、出産の3~6カ月後が最も発症率の高い時期になります(※4)。

──なぜ発症時期にズレが生じるのでしょうか。

男の産後うつ

大島由起雄 特定非営利活動法人きずなメール・プロジェクト 代表理事

理由ははっきりとはわかっていないのですが、同じ産後うつでも、男女で発症要因が異なることが一因だと考えられています。

以前は、産後うつはホルモンバランスの影響で発症するものだと考えられていました。しかし、今ではホルモンバランスのみならず、心理社会的な要因、すなわちストレスも大きく影響することが明らかになっています。

男性は女性と異なりホルモンの影響を大きくは受けないため、その違いが影響しているのかもしれません。

──具体的には、どのようなストレスが想定されるのでしょうか。

男性の場合によくみられるのは、自分の中にある「あらねばならぬ父親像」とのギャップで苦しむパターンや、パートナーが先に産後うつになり、その影響をうけるパターンなどですね。

男の産後うつ

また、産後は性別を問わず、価値観が大きく変化する時期でもあります。仕事や、友人、パートナーとの関係に関して、出産前に持っていた価値観を変える必要があることも多いです。

うつは「自分が大切に思っていたものを失った時に、そのことを教えてくれる感情」だと言われることがあります。これまで大切にしていた価値観を変えないといけないストレスも、産後うつ発症に大きく影響していると思われます。

 

■男性の産後うつは、なぜ見過ごされてきたのか

──女性と同程度の発症率であるにもかかわらず、なぜ男性の産後うつはこれまで着目されてこなかったのでしょうか。

やはり、「産後うつはホルモンだけの問題」という思い込みの影響は大きいと思います。実際、「自分には関係がない」と考えている男性は少なくありません。

私が受け持つ患者さんにも、自身が産後うつだと気づかないまま来院する人が多いですね。「仕事中の物忘れが増えた」などの理由で来院して、そこではじめて自分が産後うつであることを知るんです。

──「まさか自分が!」となるわけですね。

そうです。「物忘れが増える」などはうつで生じる症状のひとつなのですが、男性も産後うつになることを知らないと、うつの可能性を見過ごしてしまうんです。

同様の理由で、男性の産後うつは周囲からも見過ごされてしまうケースが多いですね。

男性も産後うつになるのだと知らない場合、たとえば「気力の低下」「ミスの増加」などのうつ症状が出ている同僚を目にしても、「あの人、仕事ができなくなったな」くらいにしか思えず、見過ごしてしまうのです。

──なるほど。男性の場合、ジェンダー規範にとらわれて弱音を吐けず、周りが気付けないという側面もあるのではないかと思いました。

それもありますね。男性は女性と比べて自ら援助を求めない傾向があり、そのため問題が顕在化せずに進行することが多い(※5)。

そのことも一因なのか、実際、うつ病になると自殺率は男性の方が女性よりも高いんです(※6)。

男の産後うつ

──深刻ですね。

自殺に至らずとも、ひとりで抱え込むあまり、アルコールなどに依存してしまうケースも少なくありません。

こうした事態を避けるためにも、まずは「男性も産後うつになる」ということを世の中が認識するとともに、並行して、男性が弱さを表出できる社会を作っていく必要があるのではないでしょうか。

──パートナーの負担削減という意味でも大事ですね。

そうですね。メンタルヘルスの問題は、パートナー間でお互いに影響を及ぼし合うことがわかっています。たとえば女性が産後うつになると、男性が産後うつになる確率は24~50%ほど上昇します(※7)。その逆もまた然りです。

こうした悪循環を加速させないためにも、男性に対する周産期のケアは重要だといえるでしょう。

また産後うつは、子どもへの身体的虐待や暴言、ネグレクトなどにもつながりかねません(※8)。虐待予防の観点からも、男性の産後うつ対策は見過ごすことのできないポイントだと思っています。

男の産後うつ

■知識に基づいた配慮を大切に

──では「男性の産後うつ」のリスクを低減するために、個人ができることには何があるのでしょうか。

まずは、男性も産後うつになることを理解し、それがどのような症状として現れるのかを把握することではないでしょうか。

そうすれば、初期症状の段階で自身の異変に気づき、深刻化する前に対応ができるようになるはずです。

男の産後うつ

理想をいえば、そうした知識をパートナーの出産前に身につけてほしいですね。出産後は余裕がなくなり、新しい知識を身に着ける時間もなくなるので。

代表的な傾向を下にまとめたので参考にしてください。


【中心的なうつの症状】
ほとんど1日中気持ちが落ち込んでいる
以前楽しかったことが楽しめない
食欲がなくなっている(コントロールできない)
夜眠れない(寝すぎてしまう)
なんとなく落ち着かない
疲れやすい、気力が湧かない
自分には価値がないと感じる
頭が働かない、集中できない
死んでしまいたいという考えが浮かんでくる


 

──まずは知ることが大切ということですね。

はい。男性本人だけでなく、パートナーにも「男性の産後うつ」を知っておいてもらえると嬉しいですね。

たとえば、うつ症状が出ている男性の様子は、あたかも「育児をサボっている」かのように見えることがあります。そこで男性を責めるだけだと、うつの症状がさらに深刻化してしまう可能性がある。

もちろん、これは逆の場合も同様です。男性も同じように「女性の産後うつ」について知っておく必要がある。知識に基づいた配慮を持ちながら、お互いが納得できるあり方を見つけるのが大切なのではないでしょうか。

産後のメンタルに関する情報や、対応策を知ることのできるウェブサイトも作成していますので、ぜひ参考にしてもらえると嬉しいです。

10問の質問に答えるだけでうつ傾向をチェックできる「エジンバラ産後うつ質問表」(EPDS)もあります。こちらから使えるので試してみてください。

──「男性の産後うつ」「女性の産後うつ」と分けて考えるだけでなく、「ふたりの問題」として考えていくことが大切なのかもしれませんね。

そうですね。とはいえ、決してふたりだけで解決しようとはしないでください。家庭内で抱え込んでしまうことは、状態の悪化につながりかねません。

また厚生労働省は2021年度より、市区町村に相談窓口を設け、子育て経験のある父親等によるピアサポート支援や、カウンセラーの配置などを後押しすることを決めました。

こうした公的支援や、産後ケア施設、保健師さんなどに相談するなど、家庭外の社会資源を利用してほしいなと思います。

──社会資源のさらなる拡張を期待したいですね。本日はありがとうございました。

(構成:大沼楽)

 

※1 Cameron EE, Sedov ID, Tomfohr-Madsen LM. Prevalence of paternal depression in pregnancy and the postpartum: An updated meta-analysis. J Affect Disord. 2016 Dec;206:189-203.
※2 Takehara K, Suto M, Kato T. Parental psychological distress in the postnatal period in Japan: a population-based analysis of a national cross-sectional survey. Sci Rep. 2020 Aug 13;10(1):13770.
※3 Williamson MT. Sex differences in depression symptoms among adult family medicine patients. J Fam Pract. 1987 Dec;25(6):591-4./ Winkler D, Pjrek E, Kasper S. Anger attacks in depression–evidence for a male depressive syndrome. Psychother Psychosom. 2005;74(5):303-7.
※4 Paulson JF, Bazemore SD. Prenatal and postpartum depression in fathers and its association with maternal depression: a meta-analysis. JAMA. 2010 May 19;303(19):1961-9.
※5 Fletcher RJ, Matthey S, Marley CG. Addressing depression and anxiety among new fathers. Med J Aust. 2006 Oct 16;185(8):461-3.
※6 Hawton K, van Heeringen K. Suicide. Lancet. 2009 Apr 18;373(9672):1372-81.
※7 Goodman JH. Paternal postpartum depression, its relationship to maternal postpartum depression, and implications for family health. J Adv Nurs. 2004 Jan;45(1):26-35.
※8 Hanington L, Heron J, Stein A, Ramchandani P. Parental depression and child outcomes–is marital conflict the missing link? Child Care Health Dev. 2012 Jul;38(4):520-9./ Nath S, Russell G, Ford T, Kuyken W, Psychogiou L. Postnatal paternal depressive symptoms associated with fathers’ subsequent parenting: findings from the Millennium Cohort Study. Br J Psychiatry. 2015 Dec;207(6):558-9.

カテゴリ
ごとに見る
月ごとに
見る

お問い合わせ

きずなメールの活用・導入について、
その他の内容に関しても、
お気軽にお問い合わせください。

03-6317-5575平日:10時〜16時