まつしま病院/小竹久美子助産師、古池織恵先生(心療内科)インタビュー(第3回)
お母さん向けポイント
- 「産後うつ」はいまや10人に1人がなる可能性があるといわれている。
- 自分が大変な状況になったら、ためらわず誰でもいいから相談する。「アウトプット」が大事。
- 病院や保健師さんなど、地域の人やサービスは、意外に親身になってくれるもの。
パートナー向けポイント
- 核家族で初めて子育てする女性は、人生で経験したことのない緊張状態で、「過緊張」になりやすいので注意。
- まずは「言葉」で寄り添うことを意識して。その次に、育児を代わってみる。
- 奥さんの「SOS」、「ちょっと普段と違う?」を見逃さないで。
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産前、産後の女性の「こころの問題」を考える。
まつしま病院/小竹久美子助産師、古池織恵先生(心療内科)インタビュー
(第3回/最終回)
まずは誰でもいいから「アウトプット」することが大事
――女性の中には、「自分が赤ちゃんを虐待してしまうのではないか」と不安がっている人もいます。
小 自分自身の母親との関係で、かつて虐待を受けていたとか、それに近い経験をもつ人の中には、自分も虐待をしてしまうのではという不安が強い人もいます。そういう人には「もし虐待してしまいそうになったら、すぐ病院にきてね」と声をかけていますが…。もしも自分がそういう気持ちになったら、誰でもいいから助けを求めてほしい。パートナーでなくてもいいし、友達でも他の家族、保健師さんや公的機関、私たちのような病院のスタッフでもいいから、とにかく誰かに伝えて「アウトプット」することが大事。助けを求める相手が、家族ではない人も多いはずです。
古 雑誌やテレビの中でも「幸せな家族像」が強調されていて、そういうものと自分の状況を比べて密かに心を痛めているお母さんも少なくありません。シングルマザーもいれば、パートナーと別々に暮らしている人もいます。でも誰かと繋がっていれば、やっていける。「きずな」は家族に限らないのではないでしょうか。
小 以前、「話してもいいですか? 私、赤ちゃんを虐待しそうなんです…」と突然話し始めた女性がいました。養護施設で育ち、シングルマザーになって一人で子育てしている方でした。サポートしてくれる公的サービスのことは知っていたけど、自分からは切り出せなくて、当院に来たら思わず話してしまったようです。聞いてみると、独りで子育てする不安やストレスを、目の前にいる赤ちゃんにぶつけてしまいそうだと。赤ちゃんを育てる自信がなかったんですね。その少し相談にのって、今は信頼できる友人に一時的に赤ちゃんを預けて、まずは自分の気持ちや環境を整えることに専念して、ときどき赤ちゃんと過ごして慣れていくというところから始めています。一般的な子育てからするとどうかと思われるかもしれませんが、これで母子ともに楽に、安全に過ごせるなら、こういう形もありなのではと思います。人間には一人ひとり、受け止めきれることと受け止めきれないことがありますから。
古 「子どもを叩きたくなる」と正直にいうお母さんもいますが、そういうお母さんに「叩くなんて絶対ダメだよ!」と言うと、さらに追い詰めることになります。良し悪しは別として、子どもを叩きたくなるほど追い詰められていて、そのことを誰にも言えなかったから、そういう表現になっているのですから。「子どもを叩きたくなる」というのは、お母さんからのSOSなんです。こんな時、パートナーなどが「そんなのダメでしょう!」なんて言ってしまうと、もうそれ以降は何も言わなくなって、隠すようになります。これが一番危険な状況です。だから周りの人がSOSをいかにキャッチできるかが重要。こういうお母さんに周りが早めに気付いて、手を差し伸べるような雰囲気が大切です。
小 例えばお父さんがお母さんから(パパがママから)「今日イライラして、子ども叩きそうになった」と言われたら、「どんなときに叩きたくなっちゃうの?」ってまず聞いたほうがいい。「思い通りならなくて大変で・・・」という答えなら、「その大変さ、なんとかしたいね」とか、やっぱり言葉で寄り添ってあげてほしい。一方お母さんは、自分が大変だと思ったら、とにかく周りの誰でもいいから「アウトプット」すること。そういう時、先の保健師さんではないけど、公的な機関やサービスは、意外に親身になってくれるものです。
――周りの人はどういう点に注意すれば、早期発見につながるでしょうか。
古 出産してから「なんかいつもと違うかな」と感じたら、まず注意。とくに強いうつ傾向の場合は、痩せてきた、表情が乏しくなった、いつもできていた家事ができていないなどのなどの急激な変化があるものです。
小 パートナーやご両親が、「ウチの妻や娘は、ちょっといつもと違うな」と感じてもらえるなら安心ですが、逆に「いつもこうだ」とか「寝れば治る」というように理解がないと、受診が遅れる傾向があります。異変を感じて心療内科の受診を薦めても、お母さんのほうが抵抗を示こともあります。そういう場合は、少しずつ理解を促しながら、やはり病院や公的機関に早めに相談してほしい。
古 お母さん自身も周りの人も、とにかく助けを求めることをためらわないこと。声さえ上げれば、家族以外でも社会には、助けてくれる人、支えてくれる人は意外に多いものです。
小 ホルモンのバランスで産後はとくに不安定なるので、産後のうつ状態は誰にでも起こりうること。そういう時は誰にでもいいから「アウトプット」すること。相談することで、それで済む、乗りきれる人もいます。だからまずは「アウトプット」を心がけて。
――ありがとうございました。
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