まつしま病院/小竹久美子助産師、古池織恵先生(心療内科)インタビュー
お母さん向けポイント
- 「産後うつ」はいまや10人に1人がなる可能性があるといわれている。
- 自分が大変な状況になったら、ためらわず誰でもいいから相談する。「アウトプット」が大事。
- 病院や保健師さんなど、地域の人やサービスは、意外に親身になってくれるもの。
パートナー向けポイント
- 核家族で初めて子育てする女性は、人生で経験したことのない緊張状態で、「過緊張」になりやすいので注意。
- まずは「言葉」で寄り添うことを意識して。その次に、育児を代わってみる。
- 奥さんの「SOS」、「ちょっと普段と違う?」を見逃さないで。
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産前、産後の女性の「こころの問題」を考える。
まつしま病院/小竹久美子助産師、古池織恵先生(心療内科)インタビュー
(第1回/3回予定)
いまや出産直後の女性の10人に1人がなる可能性があるといわれる「産後うつ」。もともと出産後にうつ状態になる女性はいましたが、ここ数年増えてくる一方、「婦人科」と「心療内科」という二つの分野に関わるデリケートな問題であるため、専門に対応できる医療機関はこれからという現状です。また産後の女性がうつ状態になる環境は、そのまま乳幼児虐待が起きやすい、ストレスの高い環境ともいわれています。
そんな中、早い時期から産前産後の女性の「こころの問題」に取り組み、産婦人科と心療内科を併設している都内でも数少ない産院である「まつしま病院」(東京都江戸川区)の小竹久美子助産師と、心療内科の古池織恵先生に話をお聞きしました。
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産前も産後も、心が不安定になりやすい女性が増えてきた
――「産後うつが増えている」といいますが、実際はどうでしょうか。
小竹助産師(以下「小」) 産後うつを含め、妊娠前から「眠れない」「不安が強い」などで心療内科や精神科に通院されていて、妊娠する人が増えています。
古池先生(以下「古」) 妊娠する前からパニック障害やうつなどで通院されていた方が、妊娠して当院に来られることもあります。そういう人の場合、「心療内科で通院治療していて、妊娠や出産ができるのか」「お産が怖い」など、妊娠・出産がさらに不安要因になります。家庭でのサポートがしっかりしていれば大丈夫ですが、パートナーが多忙で帰宅が遅かったり、近くに親類縁者がいない環境だと難しい面があります。
小 出産後の女性はホルモンバランスが大きく変化するため、精神的に不安定になやすい時期。私たち助産師が見ていて、妊娠中はなんともなくても出産後入院している間に突然「落ち着かない」「眠れない」とか、逆に眠らなくて過剰に赤ちゃんの世話をがんばってしまう方はいます。
古 こういった症状が軽ければ一時的なマタニティーブルーで、大抵の場合は出産直後に始まって2週間ほどで落ち着くものですが、産後1カ月健診の時に、明らかに妊娠中や入院中と様子が違う、落ち着きがない、眠っていないことがわかる人が、私のところ(心療内科)に来ることも少なくありません。こうした症状が重くなると、度合いにもよりますが、「うつ」として対応することになります。
一般的なうつよりさらにリスクが高い「産後うつ」
――多くの例がすぐに出てくるということは、産前産後に不安定になりやすい女性がそれほど多いということでしょうか。
小 助産師から見ても「心療内科の先生に相談したほうがよさそうだな」という女性の割合は、明らかに増えています。
古 「産後うつ」とは「産褥期になるうつ」のことで、「うつ」である症状自体は基本的に他の時期と変わりません。ただこの時期は赤ちゃんがいるため、一般的なうつよりさらにリスクが高いといえます。
小 例えば核家族で、生後1カ月の赤ちゃんがいてうつになった場合、子どもの面倒をみる事ができないとなると、子どもの命に関わることになります。だから産後うつは、うつの中でも「緊急性が高い」のです。
――そうなら早期発見が大切ですが、自分からうつの症状を自覚して来られる方はいるのでしょうか。
古 最近は雑誌やインターネットなどで産後うつの情報が広がってきたので、「もしかしたら自分は…」と来られる方もいますが、ごく少数派。多くの方はやはり周りの人が変化に気づいて、例えば当院なら、他の産婦人科の先生からの紹介が多くて、他には産婦さんの母親、パートナー、友人からすすめられてというケースがほとんどです。
小 当院は小児科もあるので、小児科の先生からの紹介や、地域の保健師さんからすすめられて心療内科を受診しに来られる方もいます。
古 うつは「落ち込む」といイメージが強いですが、イライラしたり口調がきつくなったりするなど、攻撃的になる人もいます。ハイテンションになる人もいて、周りからは元気に見えますが、そういう時期の後、突然落ち込んだりします。産後の気分障害の半分は「双極性」、つまり「うつ」もあれば「躁」もあると認知されてきていて、「うつ」=落ち込む、無気力、眠れないと単純に一くくりにはできません。だから周りの人は、「普段と違うな」と感じたら、注意が必要です。
――家族を含めた地域と病院の連携が欠かせませんね。
小 周りの人が見てはっきりと「うつだ」わからないこともあるので、兆候を見つけたら、すばやく対応することが大切です。当院も、うつとまではいえないけど「ちょっと気になるな、大丈夫かな」とか、明らかに頑張りすぎる人を見かけたら、地域の保健師さんにつないで早めに訪問(※)してもらうなどの対応もしています。
※虐待による死亡事例の中でも最も多い乳幼児の虐待死を予防するため、現在、国の施策として、保健師や助産師などが生後4か月までの乳児のいるすべての家庭を訪問する「乳児家庭全戸訪問事業」(こんにちは赤ちゃん事業)が行われている。実際のどのように行うかは、各自治体の方針による。
古 地域差はありあすが、保健師さんというのはこういう時、実はとても頼れる存在です。お母さんが「ただちょっと不安」というだけでも相談に乗ってくれるし、地元の医療機関や公的サービスについてのきめ細やかな情報も持っています。当院のある江戸川区だと、区役所に電話したらつないでもらえます。でもお母さんの中には「出産するまで保健師さんなんて知らなかった」という人が意外に多い。保健師さんの存在や役割を地域で知らせるだけでも、かなり変わってくると思いますが…。
小 とくに心配なのは、追い詰められているのに、周りの人のすすめにもかかわらず、心療内科を受診することに抵抗があるお母さん。この場合、誰の目も届かないところで症状が重症化する可能性があるため、母子ともにとても危険な状態になってしまいます。(つづく)
まつしま病院
〒132-0031東京都江戸川区松島1-41-29 電話03-3653-5541 http://www.matsushima-wh.or.jp/
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