5歳児健診の助成開始を通して、発達障害を考える/「学童期・思春期メッセージ」第14回編集会議開催報告
コンテンツチームの荻原です。
きずなメールは「テキストでつながり続けるセーフティネット」です。2024年9月29日現在、5万8079人の読者の方とつながり続けています。
より長くつながりつづけるために現在、18歳までの「学童期・思春期メッセージ」をブラッシュアップするための編集会議を、オンラインで月1回、開催しています。
第14回の10月8日は、5名の医師と、4名のきずなメールスタッフが参加しました。
この学童期思春期メッセージは、段階を踏んで育てていく原稿です。
6~18歳のお子さんや保護者の方に向けたメッセージは、団体としても初の試み。
具体的には、3段階にわたってバージョンアップしていく計画となっています。
今回の会議をもって、第2段階の作成はすべて終了の報告となりました。
全原稿114本中、47本がアップデートとなりました。
どのような内容が追加されたかは、第13回編集会議開催報告をご参照ください。
今回の会議では、第3段階の制作に向けて、第2段階では盛り込み切れなかったことを振り返りました。
【コンテンツ担当の思索録】5歳児検診の助成開始を通して、発達障害を考える

第2段階では盛り込み切れなかったもののひとつに、「発達障害」についての内容がありました。学童期の子どもの困りごととして、学校になじめない、友達とうまくコミュニケーションできない、授業に集中できない、ついていけないといったものがあり、それらの背景に発達障害、学習障害等、発達の問題が見られる場合もあるため、内容として取り上げられないかと検討をしていました。
「対象年齢の子を持つすべての親」に向けたメッセージの中では、何をどのように伝えられるのか?実現可能なのか?
今回、このテーマで医師たちから現場の実感やご意見を聞くことができました。
まず、議論のとっかかりとして、「5歳児健診への助成開始」を取り上げました。
5歳児健診は、3歳児健診と就学前健診の間を補うような形で始まったもので、令和6年度1月に国からの実施主体である市町村への助成が始まったばかりです。
現在、市町村に必ず実施すべきという義務はありませんが、この健診の実施目的のひとつとして挙げられているのが、「発達障害など心身の異常の早期発見」です。
(こども家庭庁資料より参照 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ff38becb-bbd1-41f3-a95e-3a22ddac09d8/6a0d17f1/20231129_policies_boshihoken_136.pdf)
今後、発達障害についての内容を「学童期・思春期メッセージ」に盛り込んでいくとしたら、どのような形が可能なのか? 5歳児健診にある問診票のようなものを、たとえばメッセージに入れ込んで、早期発見につなげられないか。私はそんなイメージをひとつ描いて今回の議論に臨みました。健診医師たちとの対話を通してわかったことを共有します。
①発達障害といわれるものの「理解を広げる」視点
会議のなかで、「そもそも発達障害とは何かということについて、社会的に理解が深まっている状況ともいえない」という医師の言葉がありました。
発達障害と、いじめや不登校との関連も指摘されているなど、当事者の周囲の人々の知識や意識の持ちようによって防ぎうる問題もあります。
発達障害は、「個性」という捉え方もでき、周囲の知識と理解が「その子に合った環境を整える」ことにつながります。
「発達障害について、理解を広げる」という視点で、実現の可能性を探れるかもしれないと感じました。
②「病気を見つける」という視点で入れることは難しい
5歳児健診の実施目的のひとつとして「発達障害など心身の異常の早期発見」があることは前述しましたが、こういった視点で原稿の中に取り入れることはどうなのでしょうか。例えば、5歳児健診の問診票を参照し、「このような行動が見られたら気になるサインかも」というような。
結論から言えば、それはとても困難だというのが医師の総意でした。
まずはその行動ひとつでは何も判断ができないこと。そしてそれを読んだ親が不安に感じたとしても、まだ相談できる先が十分には整備されておらず、不安を煽るだけになってしまう可能性があるなど、意見が交わされました。
③5歳児健診の実施のために必要なこと
助成が始まったとはいえ、5歳児健診を実施している自治体はまだ少ないようです。その理由としては、まず診断の難しさがあると言います。「健診」という1回のみの限られた診察の中で、誰がそれを担っていくのか。
次に、受け入れ先の問題。5歳児健診で、子どもの気になるサインを見つけたとしても、そういった子どもたちを専門的に診ることのできる場所は限られています。地域によっては何か月待ちもあるとのことでした。
また、発達の問題はひとりひとり本当に違うので、その子に合った環境を整える必要がある、という話も出ました。環境を整えるためには、医師だけでなく、保育園や自治体の保健師、家庭も含め、多くの人が連携していかなければなりません。
実施を始めても、その結果を十分に生かしていくためには、様々な準備が必要だということがわかりました。
④「実現可能か」の問いを越え、議論をしていくことが大切
原稿としてどのように取り上げられるか、そもそも実現可能かどうか、という問いから、今回の議論は始まりました。しかし、原稿に入れることは難しいから議論の対象からは外す、ということではなく、議論を続けていくことが大切だという医師からの言葉を聞いて、はっとさせられました。
発達障害を取り巻く様々な環境は、まだ混乱の中にあるのかもしれません。しかし、その混乱は、議論し、秩序立て、一歩ずつでも先に進もうとしない限り、おそらく成熟していくことはないのではないでしょうか。
現場の最先端にいる医師たちは、整えられるのを待つだけでなく、その先鋒で議論を深めていく立場にあるのだと改めて思いました。そのような医師たちと場をともにすることができることを、とてもうれしく思いました。
また、この編集会議の場は、原稿化される外側までを射程に入れて、じっくりと知識、理解を醸成していける場なのだと実感をしました。
第3段階の原稿作成について、また一年間、頑張っていきたいと思います。(了)
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