東京都小笠原村の妊娠・出産事情 最新レポート①

02.01

東京都小笠原村の妊娠・出産事情 最新レポート①


小笠原村の基礎知識

地図上で東京都と北海道をコンパスで結び、それを真南に下ろしたところが、ちょうど小笠原諸島。緯度は沖縄と同じでも、直行便で行ける沖縄と違い、本土からのアクセスは6日に一度の船しかないまさに「離島の中の離島」です。その小笠原でも、女性は普通に妊娠し、日々新しい命が育まれています。

妊婦さん支援活動の一環として遠隔地や離島の妊婦さんの事情について調べているときに、小笠原の妊娠・出産事情を知ることになりました。そしてその最新事情を知るため、小笠原村の自治体、医療関係者に取材を試みました。

本題に入る前に、小笠原村の基礎知識を頭に入れておく必要があります。それほど「内地」(離島などの遠隔地から主に本州を指す場合の言葉)の私たちは、小笠原のイメージに乏しいからです。

小笠原村のある小笠原諸島は、東京から南へ約1000キロに位置する群島です。行政区分上は「東京都小笠原村」。人が住むのは「父島」(人口2020人/2011年1月1日現在)と「母島」(人口464人/同)のみ。日本国の最東端「南鳥島」と最南端「沖ノ鳥島」や、太平洋戦争の激戦地だった「硫黄島」も含まれます。

東京から南下すること1000キロに位置する。

内地との定期的なアクセス方法は、「おがさわら丸」という船舶のみ。硫黄島に海上自衛隊管理の航空基地がありますが、島内に民間の飛行場がないためです。「おがさわら丸」の出航は前述の通り6日に1回、ピークシーズンのみ3日に1回となり、所要時間は片道25時間。一度小笠原村に行くと、旅程は最低でも6日となります。

医療施設は父島の「小笠原村診療所」、母島の「母島診療所」の2カ所。医師はそれぞれ2名と1名づつの合計3名で、約2500人の村民の健康を預かっています。

小笠原村診療所(父島)

小笠原村母島診療所(母島)

小笠原村母島診療所(母島)

「島内出産」と「島外出産」

「村で妊娠される女性は年間20~30名前後いらっしゃいますが、そのすべての方が現在、“島外出産”です。島内での出産は、2002年の4月が最後。それまでいらした産科専門の先生が、内地に帰られたためです。これ以降、現在まで島内でのお産はありません」

とは小笠原村役場、村民課福祉係係長の村井達人さん。小笠原村の妊婦さんは、小笠原村でお産ができない。まずここに、離島ならではの苦労があります。

「島外出産される妊婦さんは、ほとんどが里帰り出産になります。現在島民の多くが“新島民”、つまり内地から村へやってきた方々ですので、内地の身寄りを頼ってお産されます。
また、事情があって里帰りをしない方や島出身で内地に身内がいない方は、東京北社会保険病院を利用されます。村では、同病院と提携し、出産やそれまでの宿泊施設を確保していただいているためです」

小笠原の妊婦さんの場合、妊娠32週前までに内地に移動する必要があります。船の決まりもありますが、妊婦さんがより安全で安心なお産を迎えるために、村の方でもこの週までに移動するよう理解を求めているからです。妊婦さんは、産後1ヵ月健診まで滞在するなら、約4ヵ月もの長期間、住み慣れた島を離れることになります。

「島外出産は、妊婦さんとそのご家族にとって、時間的にも経済的にも、負担が大きいです。上のお子さんがいる場合、保育園児なら転園、小学校低学年なら一時的に転校する例もあります。ご主人とも長い間離ればなれになるし・・・」

村としてももちろん、妊婦さんを支える様々な施策を講じているといいます。

「本当なら、産科を含めた総合医が見つかるといいのですが、なかなか難しい現状があります。ですので、村が出来る支援として、島外出産される妊婦さんには、通常の出産一時金に加え、父島の妊婦さんには40万円、母島では41万3千円を『出産費用補助金』として出させていただいてます。また母親学級や両親学級、エクササイズ、ヨガの講座開催など、妊娠期間中も、できるだけ妊婦さんが安心して過ごせるよう積極的にサポートさせていただいています」

とはいえ妊婦さんにとっては、「島内出産」がもっとも安心できる理想のお産。そのことは、村の誰もがわかっていてもままならない。日本の周産期医療を覆う産科医不足と分娩施設の減少は、「内地」だけでなくここ小笠原村でも、切実な形で現れていました。

「村では折に触れ、医師や看護師・助産師を募集していますが、やはりこの地理的条件のためか、長くいてくれる方が見つかりません。かつていらした先生方の中には、小笠原の自然や生活に魅力を感じて“このまま小笠原にいたい”という方も少なくなかったですが、皆さん内地出身で、内地に残されたご家族の事情などで帰らざるを得ない。産科医以前に、通常の医師の確保すら困難が伴う現状が続いています」(つづく)


取材・構成/大島由起雄(きずなメール・プロジェクト)


【関連リンク】
小笠原村HP 
http://www.vill.ogasawara.tokyo.jp/
小笠原ブログ 
http://vill.ogasawara.tokyo.jp/blog/


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